ここ10年のアニメ制作現場
「マチ★アソビ」神山健治監督トークショーまとめ(3/5)
アニメ製作の主役・アニメーターの平均年齢がここ10年で上がっている。
神山さんの周りには(入れ替わりはありつつも)固定しているメンバー・神山組がいるが、神山組でも平均10歳くらい上がっていて、新しい人が入ってこない。
アニメーターとして活躍するには10年修行が必要なのだが、10年我慢しようと決意して入ってくる人が極端に少なくなった。
◆絵のトレンドははメカから美少女へ
アニメ界で描きたい絵のトレンドは日々変質していく。10年前はメカを描きたい人と美少女を描きたい人の比率が6:4だったが、この10年でメカを書きたい人はほぼいなくなり、比率が1:9になってしまった。
攻殻機動隊をスタートした段階で、自動車とか航空機、ヘリコプター、タチコマなんかを描きたい人は少なく、3DCGに頼らざるを得ない。
松浦:
「機動戦士ガンダム00 」の3DCGの仕事でやっぱりモビルスーツをやりたかったが、サンライズのスタッフにはガンダムを描きたい人がいるのでこっちにはやらせてくれない。こんな感じで人材には偏りがある。
◆ガンダムはメカじゃない
メカの中でもガンダムなら描きたいという人はいるが、ガンダムというのはキャラクターになっている。
自動車がカーブしていく時に崩れずに描くのはただ大変なだけ、線がぐにゃぐにゃになる。
中割は今ほとんど海外に発注するが、彼らはフリーハンドで描いてしまって、絵を動かすと線がぐにゃぐにゃしてしまう。そういう場合、演出を省くか 3DCGでやる。車とヘリコプターなど、動いても形が変わらないことが大切なものは3DCGで描く。
正確に作画をすることにおもしろみを感じる人が減っていて、時間が許されればやりたいという人はいるが、時間がない。1カットに1~2週間かけてしまうと、1ヶ月におよそ1万円しかかせげなくなるので金銭的にも厳しい。
◆タチコマとガンダムの違い
タチコマについては最初はセルで作画もしていたが今は3DCGになった。
ガンダムは2本足なので人間と同じ感覚で描けるが、タチコマは4本足。どっちの足を出すのか、どっちにウエイトがかかって傾くのか、と考えるとタチコマの線はガンダムより少ないが、作画はガンダムの5倍大変。
◆3DCGに頼らざるを得ない
「東のエデン」のころにはしっかり描けるアニメーターが減っていて携帯まで途中から3DCGで描いた。作画でやると、携帯を主人公が耳に当てる芝居の中で、線がぐにゃぐにゃになってしまう。そうなると台無し。
モブキャラも3DCG。モブキャラのライブラリは400~500あって、動きもライブラリに保存してある。サッカーしている動きとか。
◆2Dだから可能な表現
ゲームやハリウッド映画が3DCGのメインと言えるが、3DCGのアニメには成功例がない。ぱっと見て、3DCGで作られたものに感情移入ができない。
アニメの歴史は50年ある。先輩方のものを取り入れ、うまく使った映像表現や物語をやっていきたい。動きも含めてセル調を目指す。
日本の2Dのキャラの魅力を放棄してまでハリウッドに近づく必要はない。
記号化されたセルアニメの方が複雑なストーリーを表現できる。
pixarのような絵をリアルにすればリアルな話はできるが、ちょっとでもウソがあると一気にしらけてしまう。フォトリアルを目指していくと表現の幅がせばまってしまう。
例とえば「ちびまる子ちゃん」で、洪水がおきて町が流される回があった。
まるちゃんにしてはシリアスな話で大変なことが起きたという話だが、同じことを攻殻機動隊や、フォトリアルなアニメで洪水を作ろうと思ったら16年くらいかかる。
実は記号化した方が物語の幅を持たせられる。アニメーションで複雑な表現ができる理由はそこにある。
ラブプラスや初音ミクの3DCGには男性なら誰しもムズムズするものがある。あれもリアルじゃないからいい。リアルだと特定の女性を連想してしまう。
◆世界vs日本
今後、ハリウッドや中国が国を挙げて力を入れている3DCGと勝負していくにはどう攻めていったらいいか?
日本の持つキャラクターの魅力は放棄しない方がいい。
日本のアニメーションは不可欠だし世界で勝負できる、日本が持っている数少ないオリジナリティ。
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アニメ業界の資金繰り